ピッチョーリ、バレンシアガ初のクチュールでバイオシルクを再起用
ピエールパオロ・ピッチョーリがバレンシアガで手掛けた初のオートクチュールコレクションに、独 AMSilk 開発のバイオシルクプロテイン糸を使ったガウンが登場した。同社の素材がピッチョーリのコレクションに起用されるのは2シーズン連続で、新クリエイティブディレクターの方向性を早くも示す一手となった。

ピエールパオロ・ピッチョーリがバレンシアガのクリエイティブディレクターとして手掛けた初のオートクチュールコレクションに、ドイツのバイオマテリアル企業AMSilkが開発したバイオシルクプロテイン糸を使ったイブニングガウンが登場したと、同社が今週発表した。このガウンはバレンシアガの「第55回オートクチュールコレクション」の一部で、ピッチョーリにとって同ブランドでの初のクチュール発表となった。
AMSilkによると、同社の糸は遺伝子操作した微生物を発酵させてシルクタンパク質を生成し、それを湿式紡糸でフィラメント化する技術で作られる。同社はこの製法について生分解性があり、合成繊維に伴うマイクロプラスチックの流出がないと説明しているが、こうした特性は素材を開発した当事者自身による説明であり、第三者による検証を経た基準ではない点には留意が必要だ。
このガウンは、ピッチョーリが手掛けたバレンシアガのコレクションでAMSilk素材が使われるのは2度目となる。AMSilkによれば、最初の起用は2026年春のレディ・トゥ・ウェアコレクションで、具体的にどのように使われたかは明らかにされていない。2シーズン連続での起用は、AMSilkの素材が単発の演出にとどまらず、アトリエの実務の一部として定着しつつあることを示唆する。手作業とアーカイブ基準が特に厳しく、新素材が最も採用されにくいとされるオートクチュールの領域での起用だけに、なおさら注目される。
AMSilkのプレミアムフィラメント部門最高執行責任者(COO)ウルリッヒ・シェルベル氏は、バレンシアガのクチュールコレクションで素材がこれほど目立つ形で使われたことは同社にとって「重要な節目」だと述べた。ピッチョーリにとっても、就任後初のコレクションでの素材選びは意味を持つ。新任のクリエイティブディレクターはシルエットだけでなく何を素材に選ぶかによっても方針を示すものであり、初のクチュール発表をサステナビリティを掲げた素材と組み合わせたことは、今後のシーズンを重ねて徐々に明らかになるはずの方向性を、早い段階で打ち出した形といえる。
オートクチュールが日本の売場に直接届くことはない。実物を目にする顧客は世界でもごく限られる。東京に届くのは、そこで示された方向性のほうだ。クリエイティブ・ディレクターがクチュールで設定した素材の方針は、数シーズンを経てプレタポルテに落ち、バレンシアガの日本の店舗や百貨店のコンセッションの売場を埋める。サステナビリティの姿勢が「表明」から、価格と納期、そして販売員が説明すべきタグの文言へと変わるのは、その段階である。バイオ由来のシルクがクチュール限りの象徴にとどまるのか、それとも日本のバイイングを組み立てられる素材になるのか——当面はそこを見ておきたい。現時点では商品戦略のシグナルであって、まだ商品の決定ではない。